share this post!

IMG_1585

持続可能なコミュニティ、カギは「生き心地の良さ」

1月も終わりが近づき、「今年ももう1カ月が過ぎてしまった…」とお正月をもう懐かしく思い出しています(ああ…)。ほとんど遠出をしないことにしているお正月の私のルーティーンと言えば読書。今年のお正月も、もちろん読みました。

 

読んだのは「生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由(わけ)がある」(岡檀著、講談社)

日本全国で最も自殺率の低い地域の一つ、徳島県の旧海部町(現在は徳島県海陽町)に数年間通いながら、なぜこの地域の自殺率が低いかについて、自殺多発地域に分類できる近隣地域との比較で明らかにした本です。自殺予防の観点から重要な示唆が盛り込まれた内容であることは、言うまでもありません。それに加えて、この本で明らかにされた自殺率の低さを下支えするとみられる要因の数々は、昨今全国の地方で繰り広げられている移住促進の文脈で考えると、「移住先として選ばれる地域かどうか」ということと大きく関わるのではないかと私は捉えました。

 

3-1

 

絆の強さは良し悪し?

本書には、著者による旧海部町の多様な年代、属性の人たちへのインタビューを通じて見えてきた5つの自殺予防因子というものが書かれています。

 

 

1、いろいろな人がいたほうがよいという考え方

自治会など地域の相互扶助組織への加入が強制的ではない。加入しない人に不利益を生じさせることもないのだそうです。同調圧力が低いということですね。旧海部町では、寄付先を自分で決められない赤い羽根募金の集まりが近隣の自治体に比べて低いということが、多様な考えを持つ人たちが認められているということを象徴するエピソードとして書かれていました。

 

2、人物本位主義である

年齢や性別、肩書だけで人を評価しない。年長者の言うことを無条件で聞くということもない。「若者組」などと呼ばれる地域の青少年組織でも、近隣地域の類似組織では見られるような先輩からの理不尽なしごきもなく、女性の加入も認められるなど、合理的で柔軟性のある地域性が伺えます。

 

3、どうせ自分なんて、と思わない

いわゆる自己効力感、有能感が比較的高い。近隣の自治体に比べて、首長選挙がそれなりの頻度で行われており(長期政権が少ない)、町民の政治参加意識の高さを表しているとも言えるでしょう。

 

4、「病」は市に出せ

困ったことや悩んでいることを表に出していい、という雰囲気がある。旧海部町では「あなた、うつっぽいから病院に行ってみたら?」と友人知人に言う人がけっこういるという話を自殺多発地域の住民に著者がしたところ、「そんなこと、言っていいものなんだね」という反応が返ってきたそうです。困りごとや悩みごとは早めにオープンにして周囲みんなで解決、軽減しようとすることが、海部町では珍しくないことが見て取れます。

 

5、ゆるやかにつながる

人間関係を固定させないということ。挨拶やよもやま話はよくするものの、プライベートな生活までも支え合うということはあまりない傾向が出ている。社交的だけど干渉しない、ということでしょう。

 

 

いずれも、うんうんそうだよね、と思いました。外から移住するなら、こうした気質を持った人たちに囲まれた環境に身を置きたい、と心から思います。

 

 

「選ばれる地域」とは何か?を問い直す

本書では、自殺率に影響を与える地理的特性も分析されています。そこから導き出される、ストレス少なく暮らせる街の条件とでも言うべきことは、自殺予防という観点だけでなく、移住先として選ばれる街づくりとはどういうことなのかということを考える上でも示唆に富みます。

 

誰もが基本的に徒歩や自転車で、目的の社会資源に到達できるという住環境が整っていれば、住民たちはそれらを最大限有効に活用することができる。そのためには、コミュニティが傾斜の弱い平坦な土地の上にあり、複数の社会資源がコンパクトかつ集中的に配置され、それらを巡ってもさほど労力と時間がかからない、アクセサビリティの良好な環境であることが必要である。(166ページ)

 

先の5つの自殺予防要因と、この自殺希少地域の地理的特性は、自殺の抑制だけでなく、元々この地に生まれ育った人たちと外からやって来た人がうまくやっていけるという、移住先として選ばれる地域であるかどうかということと密接に関わっているのではないでしょうか。一方で、これらと真逆の状況にある地域というのは、コミュニティの持続可能性を維持していく上で、高いハードルがあるということを暗示しているのではないでしょうか。「わが町にぜひ移住して下さい」と呼びかける全国の自治体の皆さんには、もしこれからもコミュニティを存続させたいと願うのであれば、本書で述べられている自殺予防要因や地理的条件を意識した施策をわが町ではきちんと進めているだろうかということも、同時に問うていただきたいと思うのです。(了)

 

 

(木村麻紀)